2017 / 04
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ムルージ Mouloudji の歌う「小さなひなげしのように」 "Comme un petit coquelicot" は1951年の作で、作詞はレイモン・アッソ Raymond Asso、作曲はクロード・ヴァレリー Claude Valéry です。

「小さなひなげしのように」の歌詞だが小麦畑というのはフランスのどこにでも見られる景色である。地平線まで続く小麦畑はむしろ平凡で退屈な景色でありフランス人の原風景というものだろう。小麦畑は季節によって色が変わる。4月ごろはやや青みがかった麦の新芽の色と大地の茶色、菜の花の黄色とのコントラストが美しいし、5月になると力強い緑一色になるが6月になって穂が出てくると少し銀色を帯びる。そよ風に波打ち、太陽に穂が輝くのは美しい。7月になると早くも黄色味を帯び、8月には明るい茶色になるが、穂のひげは金色に輝く。

さて「ひなげし」の歌詞だが夏のやさしい太陽が少女を照らすとあるので小麦畑は金色を帯びたオークル(黄土色)で道端には赤いひなげしが咲いている。その中に白いコルサージュ(ブラウス)を着た "moitie nue" の少女が横になっているが、"moitie nue" というのは半分裸という意味なのでかなり肌けた状態、そよ風と心地よい太陽を浴びてまどろんでしまい衣服が乱れた様子を指すのだろうか。

この歌を知ったのは60年代の後半だったからフランスの田舎の少女はスカートだったと思う。そして歌詞にはないが若い男はヴァカンスで田舎に来ていて小麦畑の真ん中で見知らぬ少女に出会い一目ぼれをしてしまう。こう思わせるのはアメリカ映画の「想い出の夏」というヴァカンスの間に少年が年上の女性に恋をする一夏の物語の映画をこのひなげしの歌と同じころに観たためオーバーラップさせてしまうからである。

若者は少女の隣に横になり、彼女の胸の鼓動を感じながら会話を交わし彼女にキスをする。そして翌日には彼女の白いコルサージュにひなげしのような3つの赤い血を見るという内容だが、フランス語の歌詞を見ると彼女が好きでない別の男の嫉妬によって殺されたということが分かる。切なく悲しい「想い出の夏」の歌である。

美しい色彩と刹那さはフランス人の感性をくすぐる。黄金の小麦畑といえばサン・テグジュペリの「星の王子さま」で王子が狐と出会い、王子にいつも同じ時間に通って欲しいと願う。そうすればその時間が近づくにつれて期待が高まり待つという楽しみが味わえ、会えなくなった後も金色の麦穂を見るたびに君の事を思い出すだろうと王子に話す。王子の金髪が金色の小麦と同じ色だから想い出は呼び起こされ、別れの予感と定めに彩を添える。

色彩を感じさせる詩はなんと言ってもマラルメで、マラルメの詩の色彩はモローの絵を連想させる。彼の詩によるドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」はあまりに有名で詩、絵画、音楽が互いに影響しあえた幸せなエポックだったのだろう。マラルメの詩はフランス人にとってもやさしくはなく、あるフランス人の教授に「白鳥」というソンネ(ソネット)を解説してもらい初めてその奥深い世界を垣間見ることが出来た。俳句や短歌を英訳するのが難しいのと同じくフランス語の語感が根底にあるマラルメの詩も日本語には移し得ない世界だと思った。

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Comme un petit coquelicot  Mouloudji  小さなひなげしのように  ムルージ

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Comme un petit coquelicot  小さなひなげしのように    《宇藤カザン訳》 

Le myosotis, et puis la rose,
Ce sont des fleurs qui dis'nt quèqu' chose !
Mais pour aimer les coqu'licots
Et n'aimer qu'ça... faut être idiot !

忘れな草とバラは
何かしら意味がある花だけれど
ひなげしだけを好きというのは
ばかげているよ!

T'as p't'êtr' raison ! seul'ment voilà :
Quand j't'aurai dit, tu comprendras !
La premièr' fois que je l'ai vue,
Elle dormait, à moitié nue
Dans la lumière de l'été
Au beau milieu d'un champ de blé.
Et sous le corsag' blanc,
Là où battait son coeur,
Le soleil, gentiment,
Faisait vivre une fleur :
Comme un p'tit coqu'licot, mon âme !
Comme un p'tit coqu'licot.

確かに君の言う通りかもしれない
でも僕が話せば君もその理由が分かるだろうよ
最初に彼女を見たとき
彼女は夏の光の小麦畑の中で
肌けた姿で眠っていた
そして彼女の鼓動が波打つ
白いブラウスの胸元の
優しげな陽の中に
一輪の花が息づいていた
小さなひなげしのように、愛しい人
小さなひなげしのように

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C'est très curieux comm' tes yeux brillent
En te rapp'lant la jolie fille !
Ils brill'nt si fort qu'c'est un peu trop
Pour expliquer... les coqu'licots !

そのかわいい娘を思い出して
君の目が輝いている理由に
とても興味があるね!
だってひなげしのせいだとしても
普通の輝きかたではないもの!

T'as p't'êtr' raison ! seul'ment voilà
Quand je l'ai prise dans mes bras,
Elle m'a donné son beau sourire,
Et puis après, sans rien nous dire,
Dans la lumière de l'été
On s'est aimé ! ... on s'est aimé !
Et j'ai tant appuyé
Mes lèvres sur son coeur,
Qu'à la plac' du baiser
Y avait comm' une fleur :
Comme un p'tit coqu'licot, mon âme !
Comme un p'tit coqu'licot.

確かに君の言うとおりだろう
だけどね、僕が彼女を抱き寄せた時
彼女は優しい微笑で僕に答え
その後はもう言葉は必要なかったのさ
夏の輝く光の中で
僕たちは長いこと愛し合った
そして彼女の心臓の上に何度もキスをしたんだ
そしてキスしたところには
小さなひなげしのような花があった、愛しい人
小さなひなげしのように

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Ça n'est rien d'autr' qu'un'aventure
Ta p'tit' histoire, et je te jure
Qu'ell' ne mérit' pas un sanglot
Ni cett' passion... des coqu'licots !

それだけなら普通の恋物語で
君のすすり泣きにも
君のひなげしへの情熱にも値しないよ

Attends la fin ! tu comprendras :
Un autr' l'aimait qu'ell' n'aimait pas !
Et le lend'main, quand j'lai revue,
Elle dormait, à moitié nue,
Dans la lumière de l'été
Au beau milieu du champ de blé.

まあ最後までお聞きよ!そうすれば分かるから
彼女の好きでない男が娘に言い寄ったんだ!
翌朝僕が彼女を見たとき
彼女は肌けて眠っていた
夏の光の中の
小麦畑の真ん中で

Mais, sur le corsag' blanc,
Juste à la plac' du coeur,
Y avait trois goutt's de sang
Qui faisaient comm' un' fleur :
Comm' un p'tit coqu'licot, mon âme !
Un tout p'tit coqu'licot.

けれども白いブラウスの
ちょうど心臓の上に
一輪の花のように見える
三つの血のしみがあった
小さなひなげしのような、愛しい人!
とても小さなひなげしの花

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